旧・TPPと日本の著作権

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TPPと保護期間延長でどうなる日本の著作権!? ⑦(質疑応答編)

[会場からの質疑応答]

質問者1:今は言語の壁があるが、今後インターネットが発達して自動翻訳が容易になっていくと、例えば青空文庫には「死後50年の国」からだけでなく「70年の国」からも自由にアクセスして読まれてしまうことになるが、そういう問題はあるのではないか? 

 

福井:現状はどう動いているかというと、実際にそのサイトが両国語を用意して両国民に対して見せているというのであれば、「長いほう」に対応しているけれど、自動翻訳を使って、受け手のほうが翻訳してしまう、その程度のことで日本に置いてあるサーバーの日本向けのサービスに対して、日本以外の国の法律が問題になる、ということはあまり現実的ではないと思います。

 逆にハッキリと多国間向けであれば長いほうに合わせることになりますし。

 

 また、ネットビジネス全体として見るのであれば、デジタル化の問題となりますので、それは先ほど申し上げたとおりで、(保護期間は)短いほうが何かと都合がいいと私は思いますし、孤児著作物をどうしていくかが課題となっていくと思います。

 

質問者2:例えばAmazonが著作の利用権を著者から買い取って運用するという場合、日本人の著作を日本人が楽しむ場合でも、Amazonが運用するかぎり米国の著作権法が適用されるということになる。今日の趣旨とはちょっとズレるかもしれないが、それは問題だとは思わないか?

 

玉井:そのやり方は確かに問題があると思います。ただそれは我々法律屋の範疇ではないというのが正直な感想です。というのも、ビジネスのやり方でこれはまずいからというので、法律を改正してどうにかして、例えば日本の出版社の方が有利になったり不利になったりするわけでもないわけでして、そこは出版社の方に頑張っていただきたいなと思うわけです。何をすればいいのか、楽天で買い物をするとか、そういうことですか(会場笑)。

 

福井:非常に重要なご指摘だと思います。というのは、今日我々が話していることについてもそうなんですが、情報の流通のルールメイカーが、これからも国家でいいのか、という問題があります。

 現実的な問題として、そのルールを作っているのはかなりの部分でプラットフォーマーであり、またさらに深刻な問題として、いま「検閲」をやっているのはプラットフォーマーたちです。

 

 いま私たちの情報流通は、法律というよりも「利用規約」というかたちで、我々の近くで直接的に縛られてます。そういう中で、回答は簡単にできるものではありませんが、そのひとつの対抗手段として、「ひとつのプラットフォーマーにすべてを握らせないこと」だと思っています。

 

 それは例えば少なくとも国内で、(世界的なプラットフォーマーに)対抗できるようなものを育てていくという手段もあるわけです。

 そうなるとでは、どういう方法でそのプラットフォーマーを育てるのか。それは規制を強めて育てるという方法もあると思います。逆に「いや我々は流通を促進して育てる」という方法もある。

 例えば海賊版対策なんかはどんどんやっていけばいい。そういうことは国際協調でやっていけばいいと思うんですよね。ただそれだけではなく、やはり自由にやれる部分を残すことで、流通を促進して、もうひとつ対抗軸を育てられるような余地があったほうがいいと私は思います。

 

質問者3:弁護士の小倉です。今日はツイッターとは別の場面でこうした場を設けてくださってありがとうございます。

 私からは2点。「著作隣接権」という問題がありまして、これは公表後50年でして、「ビートルズ問題」と言われているように、そろそろビートルズのレコードの保護期間が切れ始める。音楽のセールス的には、著作権よりも隣接権のほうが大きな問題になっていると思うのですが、それについてはどう思われるかというのが1点。

 もう1点、確かにネット事業者にとってみると「(保護期間は)統一しているほうがいい」というのは事実だと思います。ただ保護期間というのは下限ではなく上限を決めたほうがいいのではないか。つまり「最低でも70年」という話ではなく「70年以上は延ばさない」という規定にしないといけないのではないか。また米国にはフェアユース規定がある。あるいは米国には強制許諾規定もある。つまり現状では「米国ではフェアユース規定による許可されているCDが、日本では売れない」ということも充分ありうる。

 著作権は制限規定をキッチリ決めないと、ルールというのは統一したことにならない。「ルールを統一したほうがいい」という話は(保護期間が死後50年か70年かという話だけでなく)、どこまでを統一するという話になっているのか、そこをお伺いしたいと思います。

 

福井:えー、隣接権のご指摘は大変鋭い質問だと思います。流出した(TPPの)条文を読んでみると、これを信頼するのであれば、隣接権、つまり実演家やレコード制作者の権利については、これも延長することが求められております。

 (条文の)表現を読みますと、「自然人の生存期間に基づいて決めるならば、死後70年にせよ」。つまり理論上は実演家の死後70年ということもあり得る。ただもうひとつあって、「生存期間に基づかない場合は、作品、実演およびレコードの最初の発行の年の終了時から95年」と、そういう状況になっております。

 

玉井:えー、95年になるかどうかは分かりませんが、延長を求めてきていることは間違いありません。

 それで、これは私の議論にもありましたが、「ハーモナイズ(共通化)することが大事だ」というのは、これは法律でもよく出て来る話で、「右側通行と左側通行でどっちがいいか」というのは、「どっちでもいいからどっちかに統一したほうがいいよ」と、そういう話であります。

 

 それで、制限、上限を決めたほうがいいというのは私もそのとおりだと思います。私が「交渉材料にすべきだ」と言ったのは例えば「じゃあもう上限70年で決めましょう。それが嫌な国はTPPから出てってもらうということで」と、それくらい強いことを言ってもいいということです。

 その場合(保護期間が死後100年の)メキシコは出て行くことになると思うのですが(会場笑)、まあそういう交渉をしたほうがいいだろうと。

 

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