旧・TPPと日本の著作権

いろいろと日々の雑事

TPPと保護期間延長でどうなる日本の著作権!? ②

【福井健策先生の発表フェイズ(30分)】

福井:福井でございます。本日はよろしくお願いします。

 えー実は私、ここへ来るまで少し怒っていたのですけども*1……いきなり褒められてしまいました。

 それはまあそれとして作戦もあるかと思うのですが、素直にありがたいと受け止めさせていただいて、えー、TPPと著作権、保護期間の延長を中心に、ということであります。

 ◆なぜTPPの「知財条項」は重要なのか?

 これはTPPの21ある交渉分野のなかでも特に激論を招いているというのはよく知られている話で、いまや最激戦区とまで言われている。特に米国は最重要項目に位置づけていて、かなり強い知財の条文要求を入れてきていると言われています。

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(福井健策先生)

 なぜそこに力を入れるかというと、これは言うまでもなく、知財、ITなどの分野というのは米国にとって最大の輸出産業である、という。

 これ(写真2)は当時(2011年)のレートで換算しておりますけれど、最新の数字ですとすでに年間12兆円というですね、驚異的な外貨を著作権、それから特許の使用料として稼ぎ出している。それでもお金はたいしたことないんですけど、これにともなって知財を行使できるということですから、ソフトパワーの源だと言えるわけです。これが米国にとって(知財が)非常に重要な理由です。

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(写真2)

 では(TPP交渉で)いったい何が話し合われているのかというと、通常これはわかりません。秘密条項ですからね。

 ところが幸か不幸か、知財は内容が流出しておると。あとそのほか、従来米国がどこに何を要求してきたかというので、だいたいどんな話をしているかが分かっています。

 で、内容については先ほど申し上げたとおり、最難関項目、あるいは米国と新興国との対立が激しい、あるいは日経新聞の記事だったと思うのですが、「米国が孤立か」なんてことも言われていたりします。

 

◆「保護期間延長問題」って何?

 さてじゃあどんなことが話し合われているかという話ですが、えー……まあ一個一個話していければいいのですけど、今日は時間がありませんから、流していくだけにしますが、えーどれも重要です。どれも充分時間を使えるんですけども、今日はその中でも「保護期間延長問題」というものについて話していきたいと思います。

 

 はい、保護期間の延長です。著作権保護期間というのは、言うまでもなく日本では著作者の生前の全部と死後50年間、というのが保護の原則であります。それがすぎますと、作品はみんなの共有財産ということになりまして、えー自由に使えるということになります。パブリックドメインというふうに申します。

 

 ところが欧米は1990年代にこれを20年間延長しました。この延長した時に米国では激論になりまして、違憲訴訟にまで発展しています。

 なんで激論になるかというと、著作権というのは誕生以来、その保護期間を伸ばし続けてきたという歴史があります。だいたい300年前にイギリスで誕生したと言われていますが、その時には「公表から14年」という保護期間だった。いまイギリスは死後70年。仮に(作品公表から死ぬまで)生前30年として、死後70年を足すと100年間。だいたい7倍くらいに伸びていることになります。 

 米国では20世紀の1世紀だけで3倍くらいに伸びたとも言われていると。

 

 よく言われているのはミッキーマウスの保護期間が切れそうになると伸ばすんだと、なので「ミッキーマウス保護法」なんて言われ方もしますね。

 一応持ってきてみましたが。まあこんな感じです。

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(写真3)

 さて、確かにハリウッドメジャーのロビー活動が延長の背景にあったのは事実であります。

 しかし米国でも違憲訴訟に発展したのは先ほど述べたとおりです。結果はどうなったかというと、これが上告審まで受理されました。上告審は見込みがないものは受理しませんので、これだけでも話題になりました。

 最終的には7:2という評決で「違憲とまではいえない」、(保護期間の延長は)合憲であるとされました。そもそも「長すぎて違憲だ」というのもすごい発想ですから、さすがそういう訴訟を思いつくのは凄いなと思いますが、えー、そこまでは達しないと。

 というわけで、以後、米国、そして欧州もそうですが、他国にもそれ(死後70年)を要求しております。理由は言うまでもなく、著作権収入で儲けておりますから、他国も伸ばしてもらえれば、それだけ収入が増えるということですね。

 

◆保護期間が延びると「いいこと」ってあるの?

 さて、では日本ではどういう議論になっているのか、いったいなにゆえそんなに伸ばしたいのか、また伸ばすと困るという反対論が出るのかというのを申し上げたいと思います。

 まず延長のメリットとしてよくあげられるのが、「保護期間を延ばすと創作のインセンティブになる、意欲が高まる」というものです。ようするにクリエイターがやる気になって、権利が保護されればされるほど、良い作品を作りたいという意欲が高くなるという話があります。

 

 えー。どうなんでしょうねこれは。

 いやまあ本人は死んでおりますから、死んだあと50年にしておくか70年にしておくかというと、今の段階から自分が死んだあと、50年後の話を見越して「もう20年延びるよ」と言われて、今やる気がどれだけ出るんだろう、という話もあるのですが……。

 ではそもそも死後70年に保護期間を延ばしたとして、期待収入も伸びるのだろうかという話があります。

 これは、ここに「アカーロフほか意見書」と書かれておりますが、米国で違憲訴訟をした時にですね、ノーベル賞受賞者5名を含む17名の経済学者が延長反対の意見書を出しておりまして、かなり話題になったものです。客席にいらしている城所先生はまさにご専門でらっしゃいますけれど、そのなかでは、えー、やっぱり死後50年って相当先ですから、中間利息を控除したりいろいろ行ないますと、現在価値に引き直して計算すると、収入の増加って全体の1%前後でしかないよ、という計算になった。

 ようするに「20年保護期間が延びるよ」と言われても、今現在の価値上昇ってのはほとんどないよ、ということなんですよね。つまりそれは今現在の創作意欲を高めることにはならないよ、ということを経済学者たちは言ったと。

 

 でも、そこでこんな意見も出るかもしれない。

「私が儲けようとしているわけではないんだ」と。50年から70年になると、子や孫の代になっていると思いますけど、「私が死んだあとで、孫や子に収入が行くかも知れないと思うと、意欲が高まる」。

 ……そういう話をしているクリエイターの方には……あまりお目にかかったことは、まあないんですけども、しかし理論上はあり得るかもしれない。

 じゃあそれも踏まえて調べてみましょうということで、朝日新聞の現役記者である丹治吉順さんという方が「書籍の寿命」というものを調べてみた。

 まあだいたい常識で考えても、市場的には多くのコンテンツはそんなに長生きしないんだろうなとは思うんですけど、実測で膨大な数の書籍を調査して、国会図書館データなどを利用して調べた結果、死後どころかほとんどの書籍が(著作者が)生前の段階で絶版になっている。死後50年の段階ではもうほとんど市場に残っていない。死後50年から70年のあいだに刊行される書籍というのは、全体の2%しかないよ、ということが出てきた。

 

 つまり98%の書籍は、著作者の死後50年までの段階で市場から姿を消している。

 そういう結果が出た。

 つまり「売られていない」ということで、売られていないということは、延ばしても遺族にとってもプラスになることはありません。ごくごく一握りの人、キラーコンテンツと呼ばれている作品だけが辛うじて生き残っている状態で、そりゃあキラーコンテンツというからには死後50年までの段階でそうとう稼いでいるわけで……まあそれはそれとして、ほとんどの遺族にとっては関係ないと。

 

 さらにいうと、もし仮に「50年から70年に延びると創作意欲が加速する」という人がいるとしても、それは「その人がこれから作る作品」についての話なわけで、すでに作っちゃって世の中に流れている作品を、さかのぼって伸ばす必要はないよね、という話になる。

 だから、「じゃあこの日から創作する作品だけ死後70年に伸ばせばいいんじゃない?」という話が出てくる。

 

 ということで、遡及的な保護、遡及的に延長することを、どう正当化するんだという論点があって、どうもこの部分が充分説得的ではないんじゃないか、ということが言われてきました。

 

◆「国際標準なんだから合わせておこうよ」といっても

 さらに次なる(延長賛成の)論点があります。

「これは国際標準だよ」と。「みんな死後70年になってるんだから、日本も早くこれに乗ろうよ」と。

 これも実際どうなんでしょうね。

 数で言うとですね、最新の動きというのはなかなか追いづらいので、ちょっと前の数字になってしまうのですが、可能なかぎり調べたところ、70年に伸ばした国は70カ国くらい。50年の国はまあ110カ国くらいかと。数で言うと50年の国のほうが多いですが、経済規模でいうと(70年の国は)欧米が入ってますから70年のほうが強いかな、といった状況です。

 

 それで死後50年の国を見て行くと、日本のほかには中国、ですから一応GDP2位と3位はこっち(死後50年)にいるのかということ。それからカナダとニュージーランド、それにASEANの大半はこっちにいますね。そんな感じになっています。

「とはいっても先進国でいうと死後70年のほうが多いよね」、「こういうものは期間を統一すると流通がスムーズになるんじゃない?」と言われるわけですけども、ただね、これも異論があったりするんですよね。

 我々も簡単に「欧米は死後70年」と言ってしまうのだけど、実はちょっと違う。

 米国の保護期間ですけど、ご存じのようにこの国はかなりワガママな著作権法を持っている国でありますから、独特な歴史のなかで、米国の作品のなかで保護期間が「死後70年」となっているのはかなり最近の作品だけとなっている。

 古い作品といのは「発行時起算」となっていて、それがそのままになっている。

 具体的に言うとこんな感じです。

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(写真4)

 1922年以前に発行された作品は、発行後28年、更新登録をするとプラス47年で、現在はすべてPD(パブリックドメイン)となっています。米国ではこうなんですね。これ自体、ほかの国ではあり得ないことです。「何年に発行されたから全部必ずPD」なんてことは言えない。

 

 それから1923~1963年に発行された作品は「発行後更新によってプラス67年になるけど、更新しなければ28年」。その後1964~1977年までだと発行後自動的に95年。

 で、1978年以降に生まれた作品が、初めて死後70年になったと。

 これはどういうことかというと、米国で1978年に作品を作ってすぐ死んだ(著作者がいる)として、それから50年以上たった時に、初めて「日本と米国が保護期間死後70年で統一された」というメリットが生まれることになる。

 まだだいぶ先です。

 もちろんこれは「78年以降に作品を発表してすぐ死んだ人」だけのケースだから、時間がたつにつれて「日米で保護期間に差がない作品」は徐々に増えていくだろうけど、市場の作品がおおむね一致するというのはずいぶん先になる。おそらく21世紀の後半頃だろうと。

 

 つまり、現状においては米国とEUだって今も統一されていないんですよ。

 場合によっては非常にバラつきがあるとも言える。

 仮にこれから先に統一していくにしても、ずいぶん先の話になる。

 いまそんな先のことを考えて、「統一したほうが流通が便利になる」と言って著作権のことを考えている人ってどこにいるんでしょう。その頃って情報流通の仕組み自体が変わっているかもしれない。そんな先のことまで考えて「保護期間の統一」を論ずる意味があるのだろうか、という話があります。

 

 また、現在は米国とEUと日本とで全部が「保護期間は不統一」ということになりますが、それによって流通が害されて輸出入ができない、なんていうことがあるのか。

 いや「あるかもしれない」とは思いますが、私は寡聞にして知りません。私は一応コンテンツの国際契約が専門ですから、「保護期間については詳しいやつだ」と思われている関係で、この手の相談は多いんですけど、「保護期間が不統一だからトラブルになっている」という話は聞いたことがない。

 

 さらにいうと、仮に「不統一で困る」という話があったとしたら、「じゃあ長いほうに揃えるのが正解なのか?」という話もある。

 このあとでも話しますが、死蔵作品というのは増える方向になる「統一」になってしまう。

 使えない方向に揃えるっていうのはどうなのか。

 

◆もし死後70年に伸ばすと起こる「ネガティブ要素」

 じゃあもっとストレートに「延長するとどんな困ったことが起こるか」という話もしておきます。

 これまでずっと「別にメリットないよね」という話をしてきました。「メリットはなくても害はないなら伸ばせばいいんじゃない?」という場合もあるでしょうから、ちょっと話してみたいと思います。

 

 えー、第一は、一番大きいのは「デジタル化が停滞するなどで死蔵作品が増えるんじゃないか」という論点があるわけです。

 これどういうことかというと、作品というのは、著作者が死んだあとは「相続人全員の共有」ということになります。もちろん遺産分割協議をするとか、遺言書を残すということをすると変わってくるんですが、日本人はあまりそういうことをしない。やったとしても著作権を対象にするということもあまりない。

 なのでだいたい相続人全員の共有となる。

 そうなると、その作品を使いたいとなると、相続人全員の同意が必要なんですね。

 

 で、死後50年くらいたってますと、まあだいたい想像がつくと思うんですが、世代が2代くらい下ってますから、相続関係は相当に複雑になっている。それがさらに70年になってしまうと、(日本の場合、遡及的に保護することになれば、保護期間の適用が)戦争をまたいだ時期に引っかかってしまいますから、探すのは相当難しいことになる。

 

 これまでは、相続人全員の了承を取るなんてことはせずに、なんとなく代表選手みたいな人に了承をとって、それでも「大変だー」なんて言ってたわけですが、これをもし「もっとキッチリやっていく」ということになったら、それはもう無理だという話になるかもしれない。

 

 特に非営利の研究活動、非営利福祉活動、アーカイブ、こういうところでデジタル化を活用していこうという場面で立ちふさがるのが、「人・カネ・そして著作権」の3点セットという話になります。

 著作権もだいぶ偉くなりましたが、まあ人手が足りない、予算が足りない、そのあとに「著作権の処理ができない」という話が浮上する。

 その用語が「トランザクション・コスト」と呼ばれているものです。これはつまり、「許可をもらって使用料を払うのが嫌だ」という話ではありません。使用料なんてたかが知れています。ものの数ではない。そうじゃなくて、権利者を探して、会いに行って、話をして、納得してもらって許可をもらわなくちゃいけない。

 それが、「手間暇を惜しむ」という話ではないけれど、やっぱりそれに割く時間と人員はなかなか掛けられない。それを非営利でやっていくというのは、現場でお手伝いしていて「とても無理だな」と私は思いました。

 というわけで、利用断念ということになる。

 

 そうなるとどういうことが起こるかというと、先ほど申し上げたとおり、死後50年たつと「市場」に残っているのは2%だけですから、(非営利の場面でも利用が断念されると)残り98%の作品は死蔵され、忘却され、散逸していくリスクが高まることになる。

 それってクリエイターのためになるのか。社会のためになるのか、という話があります。

 

 さて少し実例をあげてみたいと思うのですが、これ(写真5)は国会図書館の「明治期刊行図書の著作者探し」というね、非常に有名な事例があります。明治期に刊行された図書を全部デジタル化しました。これは例の「奇跡」と呼ばれた127億円の補正予算を使いました。「百年分だ」と言われましたけれども。

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(写真5)

 それで対象15万冊の本の、著者7万2000人を洗い出した。

 その調査にいくらかかったかというと、全部で2億6000万円かかった。けっこうかかった。期間は28カ月。まあ冊数が多いから時間がかかるのは当たり前っちゃあ当たり前だけど、その結果いったいどれだけの人々が権利保護期間中かと判明したかというと、わずか1%の777名。ほとんどの人は著作権の存否すら不明。つまり没年もわからない、所在もわからない。

 それでその1%の人たちと連絡をとって、結局許諾をとれたのが264名。7万2000名中の264名です。

 それほど古い作品についての権利処理というのは大変です。

 

 もちろんこれは古ければ古いほど大変なのですが、じゃあ新しい作品だったら簡単かというとそうでもない。NHK、ね。NHKアーカイブ、NHKオンデマンドなどがあるのでずーっとこれをやっているわけですけども、なかなか進まない。なぜ進まないかというと、課題として上がったのがやっぱりこの権利処理コスト。

 経費全体の約30%。ただしこれには支払う使用料は含まない。つまり処理のコストだけで30%くらいかかる。なぜこんなことに金がかかるかというと、ひとつには「著作者の所在が結局わからない」、情報が足りないということがある。

 これがよく言われる「孤児著作物」です。

 これは申し上げておかなきゃいけないんですけども、「著作者が分からない」ということだけが問題というわけではないんです。(著作者が)分かっても、そこからが大変。ノンメンバーと呼ばれる、権利者団体に参加していない方、50%以上の方がノンメンバーと言われてますけれど、そういう方たちとの交渉が非常に時間がかかる。

 

 加えて多数者が共有している場合、そのなかの少数者が反対してしまうと、残りの多数が「使ってほしい」「使いたい」と思っていても結局使えないことになる。

 

 そうなるとやっぱり、非営利の機関は権利処理が難しい、お金もかけられないし権利処理も大変すぎる、ということになると、どうなるか。

 それは「保護期間が切れたもの」を対象にする。そこが頼りになるケースが多いです。

 代表例として「青空文庫」があります。

 青空文庫は保護期間が切れたPDの作品について、その作品を人々に知って貰いたいというファンが、ボランティアで手入力によってテキスト化しています。完全無料で、完全自由利用を条件で1万2000作品を公開しています。

 日本を代表するすばらしい電子図書館ですね。

 この青空文庫は98%以上がPD作品です。もしこれがPDを抜きにして権利処理をしながら運営できるかというと、ちょっと現実的ではない。

 こういう活動が、保護期間延長によってかなり停滞してしまうのではないかという懸念があります。

 

 ご存じかと思いますが、富田倫生さんという(青空文庫呼びかけ人の)方が、最期まで気にかけていたのが保護期間の延長問題だったということがあります。

 

◆みんな大好き二次創作の泉が枯れてしまう!?

 またそのほかに「二次創作の泉を枯らしてしまうのではないか」という話もあります。

 えー、古い作品の二次創作って、非常に、我々は大好きなんですね。えー世界中大好きなんですけど、シェイクスピアなんかも好きでしたけれど、日本人というのはさらに好きです。

 古くは和歌の本歌取りから歌舞伎の丸本物から古典落語から、いろんなことが挙げられますけれど、世界的な例で見ると、たとえば『レ・ミゼラブル』。これは言うまでもなく19世紀のユゴーの大名作大河小説で、これはPDになったあとで、ミュージカル版の『レ・ミゼラブル』が登場し、世界のミュージカル最高峰といわれ、その後に映画化もされた。

 あるいは黒澤明ですね。『白痴』、これはドストエフスキーですね。ゴーリキーの『どん底』。それに『乱』、これも保護期間が切れてから映画化しています。

 

 当のディズニーもですね、保護期間が切れてからのアニメ化が非常に得意であります。

 代表例としてはルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』ですね。あれは実際にはキャロルの『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』という、ふたつの作品をくっつけちゃった。ちなみにそれはルイス・キャロルが遺言で「絶対にそれだけはやるな」と言っていたことでした。それでもやっちゃったという。保護期間が切れてたらやっちゃうと。

 そのほかアンデルセンの『人魚姫』なんかは(ディズニー作品だと)最後、人魚姫が幸せになっちゃうなんてこともあります。『白雪姫』もそうですね。

 あ、いや批判しているんじゃないですよ。私これらの作品大好きです。

 

 ただ、「自分たちは過去の作品を利用して名作を生み出しているのに、自分たちの作品を誰かが使おうとすると今度は保護期間を延ばすのか」ということは言われました。

 

 そのほかにも宮澤賢治の『風の又三郎』や『銀河鉄道の夜』。これなんかは遺族の許可がおりないから企画が死蔵された、なんていう話が関係者から出てきております。

 ということで、保護期間が延びるとこういう創作の泉が枯れていくのではないか。

 

貿易赤字も拡大してしまうか

 三点目として「国際収支の赤字が拡大するのではないか」という話です。

 今日はこのあたりの話が出てくると思うんですが、「いや日本は保護期間が延びたほうが得するんじゃないの?」「クールジャパンですよ」と、日本のアニメ、マンガは世界的に大人気だと言われて居るようだから、保護期間が延びれば日本は大儲けできるんじゃないか。

 私もそう思いたいんですけどね。

 人気があることは間違いないんです。けど収入という面で見ますと、日本は大幅な赤字です。

 日本が世界に向けて払った金額と、日本が世界から得た金額、これを計算すると、著作権使用料について見ると、直近1年間で6100億円の赤字となっています。これ、6~7割が北米向けということになります。

 

 日本が持っていて著作権収入を得られる作品というのは、アニメとかマンガとか、比較的新しい作品ばかりですから、著作権保護期間が延びたとしてもほとんど収入は伸びません。しかし米国が持っている著作権の収入源というのは、その多くが古い作品となります。

 たとえば『くまのプーさん』(1926年)。もとは英国生まれですが、今は米国企業が権利を管理しています。年間で1000億円の著作権収入を世界で稼ぎ出すと言われております。えー、大変な高額所得のクマさんですね。まあさらにはもっと高額所得なネズミさんだとか(ミッキーマウス1928年)、力持ちさん(スーパーマンは1938年)など、今年はこれ稼ぎましたね。『マン・オブ・スティール』(米・2013年公開)。そのほかクリスマスソングなんかも大きい。

 

 保護期間が延びると赤字は増えちゃう。また(その赤字が)固定化されちゃう。

 

 さてこういったさまざまな懸念点のなかで、最後に先ほど申し上げた「孤児著作物」について、申し上げて私からはいったん終わりたいと思います。

 

◆「孤児作品」を増やしてはいけない!

「孤児著作物」、つまり探しても著作者が見つからない作品。これが著作権保護期間延長の、すべてではないけれど非常に大きな問題のひとつだといえます。

 これかなり多いんですね。探しても探しても権利者が見つからない。

 たとえば「日本脚本アーカイブス」。これ私も関わっているんですが、脚本家連盟というのは、ご存じの方も多いと思うんですが、権利者団体が非常に強いもので、放送台本というのはそう簡単に孤児化しないと思われていた。

 ところがこれがちょうど50%。速報値でこれです。

 

 海外ではどうか。

 英国図書館。ブリティッシュ・ライブラリー、略して「BL」という、非常に障りのある名前ですけれども、ここでも「保護期間中と疑われる図書の43%」。これだけ権利者がわからない。英国はなんだかちゃんとしてそうなのに、出版社がキチッと管理してそうなのに、分からなくなっている。

 米国、過去の「学術著作物の50%」。

 非常に多い。

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(写真6)

 こういう過去の著作物のデジタル化というのは、世界的なテーマとなって凌ぎを削っています。

 例えばEUの「EU電子図書館『europeana』」。2900万点をデジタル化してネットで公開している。なんのためにやったかといえば、当然これはGoogleの対抗軸です。Googleはすでに推定3000万点をデジタル化していて、古今東西のあらゆる書籍をデジタル化して、ネットで検索可能にしようとしている。

 

 こういうことで凌ぎを削っているなかで、孤児作品対策がカギになっている。

 EUは2012年に「孤児著作物に関する指令」を出して、非営利のデジタル利用を可能にしようとしている。

 続いて米国、この3月20日に著作権行政のトップであるマリア・パランテという議会の著作権局長が、おそらく米国議会史上初めて、注目すべき提案をしました。

 それは「著作権保護期間の部分短縮」です。

「登録されていない作品については、死後50年の保護とする」ということを検討してはいかがか、と提案した。理由はほぼ一点です。保護期間を延ばしたら孤児著作物が増えちゃった。このままでは、デジタル化競争に勝てないと。

 

◆終わりに 

 さてそろそろまとめます。

 私はTPP全体のことについて、どうこういうつもりはありません。

 理由は条文全体を見ていないから。私は、仮にも国際契約専門の弁護士ですから、条文を見ないで賛否を決めることはできません。

 ただこれだけは言えます。

 個々のメニューごとに、日本の文化、社会にとっての、得失を考えて、個別メニューごとの是々非々の交渉を今、尽くすべきです。どれが日本の著作権のベストバランスなのか。是々非々の議論を尽くすべきだと。これは議論を尽くせば尽くすほど、日本にとって「よいTPP」になると思います。

 ですから私は日本の著作権保護期間延長、これは、上記のようなことを注目して考えるべきだと思うわけです。

 

 

 どうもご静聴ありがとうございました。(会場拍手)

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目次(索引)

*1:この発表会に至るまでに玉井先生が「(著作権保護期間延長への)反対論には根拠がないですしね」等と福井先生を挑発した件。詳しくは「これまでの経緯」参照